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救い。(2)
2007 / 04 / 14 ( Sat )

 


私は今、草原に立っている。
風はない。音もない。
ただ、慌てて付け加えたような光だけが、草原を覆っていた。


いつからここに立っているのだろう。
まったく記憶がない。
だから、どのくらいの時間ここに立っているのか、
私には分からない。


そもそも、この草原はいったいどこなのだろう。
どうして私はここで立っているのだろう。
ふと後ろを振り返る。
そして私は
見ている方向を果たして後ろと呼んでいいものか
分からなくなり、静かに目を瞑った。
意味はない。
敢えて意味を求めるなら、今を遮断しようとしているのかもしれない。


そうか。
私は、殺されたのだ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「誰!?」


自宅マンションの玄関に帰ってくると
表札を眺めながら長身の男が立っていた。


「ど、どちら様ですか?」
顔に覚えはなかったが、
言い方が少し失礼だったと反省した私は、男に問い直した。


「・・・」


男は黙ったまま、表札を見続けていた。
私は右足をエレベーターの方向へ向けながら
もう一度尋ねた。「あの、何か御用でしょうか?」


「神だ」


は?
思わず聞き返していた。
しかし、低く通る声で男は、はっきりと言った。
用事が、神?
それってつまり
何か宗教の勧誘?


そして私は気が付いた。
男は最初の質問に答えているのだ。


「えーっと…」
左足もエレベーターの方向へ向けつつ
直ぐに駆け出そうとはしなかった。


今の世の中は恐ろしい。
気の狂った奴が多い。
こいつもその類に違いない。
自らを神と称すのだから、気が違っている以外の何者でもない。
だからこそ
冷静に対応しなくてはいけない。


そんなことを、考えたからだ。


「あんた、吉田さんじゃないのか?」


いきなり名前を言われてドキッとした。
あぁ、ここは本能に従って逃げ出すべきだったのかもしれない。


「そうです、けど」
「表札、名前が違うから」


そもそも私の名前を知っていると分かったこの時が、
逃げ出す最後の機会だったのかもしれない。


「いや、それは同棲してる彼氏の名前で…」
正直者は、バカを見る。


「そうか。それは知らなかった。
まぁいい。じゃ、俺には時間がないから
早いとこ仕事を終わらせてもらうよ」


頭がおかしい奴だ。
私の足先までが、そう感じているのに
私は何故か、その場に立っていた。
左足が、玄関を向く。


「あの、仕事って?」


男の声は、私を不思議な気持ちにさせた。
心の奥底に沁み込み、私の心を洗い流してくれるような
気がした。なんだろう、この感じは。


「生まれ変わったらきっと、いいことがある」
そういって男は、黒い塊を私に向けてきた。


焦点を塊にあわせようとした時。


ズドン。
という音が聞こえた気がした。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「住所の氏名が本人と違うのなら
最初から言ってくれよ」
タバコに火をつけながら、男は言った。


「いや、だってアナタは神様でしょ?
それに僕は、彼氏の名前までは知らない」


煙を吐き出しながら
神様と呼ばれた男は、答えた。「神だって、知らないことはあるさ」


「そんなもんですかね?」
薄暗い部屋で光る携帯電話の着信ランプのような
違和感のある影は、静かに消えていきそうになっていた。


「あ、もう終わりですか?」
神様と話していた影は、上半身だけになった自分をみて言う。


「望みは叶っただろ」


「えぇ、そうですね。
これは終わりではなく、始まりなんですからね」
そう答えながら、男は目が痛くなるほど明るい色の髪を
掻きあげて微笑んだ。


タバコを靴の裏で揉み消しながら
神は呟く。


「最近の人間はわからねぇな」


顔の輪郭だけが僅かに識別できる程度にまで
消えかかった男は、答える。


「これは、愛なんですよ」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


何処までも続く草原は
相変わらず風も音も無かった。
私は一人、ここに立っている。


前を向きなおして
私は歩き出した。
果たして私が歩いている方向は、前なのだろうか。


暫くして、小さな黒い影が見えた。
私は再び立ち止まり
影に焦点を合わせる。


影は段々と大きくなり
それがこちらに近づく人間であることに気が付いた。


「なんだ、私一人じゃないんだ」


私の中に言い知れぬ不安や孤独が渦巻いていたことを
知って、私も近づいていった。


知らない男だった。
しかし、私が最期に見た男ではない。
よかった。私は一人じゃない。


「こんにちは。
これからは、ずっと一緒だね」


男は顔に不釣合いなほど明るい髪色だった。
目が痛くなるほどに、明るい色だった。


 


批評家、7番さんのコメントです。


つづく、かも。


 


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コメント
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ローサさんドラマはじまったね。
by: Ap * - * URL * 2007/04/15 * 17:51 [ 編集] | top↑
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>AP 様
はい、まさにボクの救いです。
by: 7番@東京 * - * URL * 2007/04/19 * 22:05 [ 編集] | top↑
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